*読み難そうな漢字には、オンマウスで読みが出るようにしてあります。*

008: 隔て





 強い日差し。乾いた空気と匂い。日陰の軽やかな涼しさ。間近に感じる親しんだ気配、笑い声。ふざけて叩かれる感触、優しく触れてくれる手。


 なんと懐かしい夢だろう。




「おはよう、モーニさん」
「…あァ、おはよう」
 変声期前の幼い声にうっそりとそちらに目を遣れば、もうすっかり見慣れた子供の笑顔があった。日に焼けた肌は茶色く、少しそばかすが浮いている。まだ夢の残滓が漂う頭でモーニは子供の顔をぼんやりと眺めた。
「珍しいね、モーニさんが朝寝坊なんて。ご飯の支度もう出来てるよ」
「ありがとうナ」
 笑みを向ければ笑みが返る。笑い方が似てきたな、と細めた目の奥でモーニは思う。
 早く来てねと言い置いて、子供は部屋を出て行った。
 帰ってきた朝の静寂の中、モーニは今朝方の夢を手繰り寄せる。
 随分昔の事を夢に見た。もう十年以上昔の記憶だ。まだ駆け出しのハンターだった頃、偶然知り合った仲間と共に小さなクランを作った。最初のメンバーは、リーダーがやはりモンブランで、マッケンローとカロリーヌ、そして…ヒュムが一人。
 モーニは顔を洗うために外に出た。歩き、水を汲み、洗う。淡々と作業を行いながら、思考は尚夢を辿る。遠い、のような欠片を少しずつ壊しながら。夢の中で見た彼の面影がどんどんと遠ざかっていくのを、水瓶の中の水の波紋を眺めてやり過ごす。
 彼を亡くして、8年が経った。
「モーニさん、お腹空いたよー」
 焦れた声が背後から体当たりと共に届き、モーニは我に返った。腰にしがみ付くのに一言詫びて頭を撫でてやれば、仲間の忘れ形見である子供は嬉しそうに目を細めて笑い声を弾けさせた。
 瞬間、既視感に襲われた。しかも記憶の先は、どこか、ではなく今朝方の夢の中だ。あの懐かしい夢の中で、小さな誰かの頭を撫ぜたような気がした。そんな知り合いはいなかったはずなのに。
 腕を引かれて宿の中へと歩きながら、モーニはもう一度子供の頭を撫ぜる。
 元気で居れば良い、と思った。心の底の隅から湧き上がってきたような、その気持ち。きっとこの空の下ではない場所にいる小さな誰かへの。
 祈るように窓の外の青空を見上げた。




  了


 FF12でモーニと一緒に居る子供はエメットの子供では?
 という仮説を円谷から聞いてから、私の頭の中にはこんなものがウロウロとするようになりました。エメットの子供の面倒見ながら仇を討とうとするモーニ。良くないですか?
 ただ、「子供の親=エメット」はまだ決定ではないので、今後もこの設定を使うかはまだ未定です。っつかオフィシャル、エメットさんに関して全然言及してくれない…。どうなのさ?と聞く前に自分で書いてみました。夢は見れる内に見ておきましょう。

 今回の話の中では、「TAイヴァリースの彼らは、12の彼らの夢(=無意識)。だからマーシュのことは知っているようないないような曖昧な感じ」というスタンスで書いています。グラン・グリモアとかその辺説明し出すと長いので、設定固まったらまたその内。

(2006/05/07 UP)

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