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046: めぐりあい
「クポ〜! 今からこのクランはナッツクランだクポ!! まずは、慣れる事から始めるクポ。今、マーシュがいるのは、こっちのイヴァリースなんだクポ〜!」
「――…モンブラン、ホントに良いの?」
何はともあれ腹ごしらえが先だと、モンブランと二人でパブのテーブルに着いたマーシュは、
躊躇いがちに口を開いた。
モーグリ用の座高の高い椅子で薄いパンのような物を頬張っていたモンブランが、顔を上げて首を傾げる。
返事が返って来ない。
どうやら周りの雑音で上手く聞こえなかったらしい。マーシュは今度は意識して少し大きめの声で訊いた。
「モンブラン、僕なんかのためにクランを二つに別けるような事して、ホントに良いの?」
咀嚼していたものを飲み込んで、モンブランは頷いた。
「良いんだクポ。気にしないで欲しいクポ。もともとモグは今のクランから離れる事になってたクポ。マーシュはちょうど良い時にモグと会ったクポ」
「そうなの?」
「クポー。元々このクランにはクランの仕事を知るために入ってたクポ。独立するための下準備クポ。メンバーも二人は集まってるクポ。でもン・モゥ族とヴィエラ族だから、もう一人くらいは前衛が欲しいところクポ〜」
むーっと考え込むような顔をするモンブランに、マーシュは
曖昧な
相槌を打つ。
目の前にはモンブランが食べているのと同様の、薄いパンが置かれている。他には焼いた羊肉のような物とサラダとコンソメスープ。運ばれて来た当初は温かだった料理も、そろそろ湯気が目立たなくなってきている。
「マーシュ、食べないクポ? もしかして口に合わないクポ?」
「え、ううん。そんな事無いよ」
気が付けば見知らぬ街中で、しかもいきなりエンゲージを行なった。慣れない事をしてお腹はきっちり空いている。料理の味も悪くない。けれど、
「…まだ頭の中が混乱してて、どうすれば良いのかよく分からないんだ」
ぽつりと呟くマーシュに、陽気なモーグリは「そんな時こそ食べるクポ!」と明るく言った。
「食べないと頭も身体も働かないクポ〜。クランの仕事はとにかくエネルギーを消耗する事が多いクポ。毎日しっかり食べる事が大切クポ!」
「…うん、分かった」
マーシュは気を取り直して目の前の物を攻略にかかる。満足そうにそれを見て、モンブランも食事を再開した。
二人が三分の二程を食べ終えた頃、相席を訊ねる声が掛かった。
「ココ、良いか?」
「どうぞクポ〜。…あ、エメットだったクポ?」
「邪魔するよ」
マーシュとは反対側のモンブランの隣りに座ったのは人間族の青年だった。エメットと言うらしい。
「見ない顔連れてるな。新しいメンバー?」
「マーシュクポ」
「は、はじめまして」
「お、ソルジャー仲間だな。オレはエメット。よろしくな」
エメットはモンブランの頭越しに半ば強引に握手をする。モンブランからの抗議の声は、「気にすんなよ」の言葉と笑顔とモーグリのひげを軽く引っ張るので、さらりと流した。
「エメットさんもソルジャーなんですか?」
「エメットで良いよ。そう、オレもソルジャー」
「マーシュ、ジョブは武器と防具で大体分かるクポ。人間族でソードを持っていればソルジャークポ」
見れば確かに、彼がテーブルに立て掛けている得物はマーシュの物とよく似た形をしていた。余り幅の広くない両刃の剣だ。
ふーんと微かに首を傾げながら、マーシュは曖昧に返事をする。
「知りたい事があったらどんどん訊けよ。ソルジャー先輩の俺が教えてやるからさ」
エメットはニッと笑って
請負う。
その彼の注文していた物が運ばれて来てテーブルに並べられ、運んできたウェイトレスの後ろからバンガ族が一人やって来た。のしのしと歩いてマーシュ達のテーブルに近づいてくる。自分が悪いとは言え、つい先程バンガ族とエンゲージしたばかりのマーシュは思わず身を硬くした。
「モンブラン、戻ってたのか」
「クポ? モーニ、何か用クポ?」
モンブランは小さな
体躯を捻って、モーニと呼んだバンガを見上げる。
「お前の新しいクランの事だが、オレも加入させてもらおうかと思ってな」
「ホントクポ?! やったクポー! 貴重な前線戦力ゲットクポー」
「何だお前も来るのかよ。そんなに俺が居ないと寂しいのかー?」
「なっ!? 誰がンな事言った! オレはただッ…………………ア?」
エメットを睨み付けて文句を言おうとしたモーニと、マーシュの手を取って喜びを分かち合っていたモンブランと、半ば訳の分からないままモンブランに手を上下に振られていたマーシュが、ピタリと動きを止めた。マーシュはモンブランにつられただけだが。
「? どうしたんだ?」
「……オマエ、今"お前も"て言ったか?」
「ああ。何驚いてるんだよ。俺もモンブランのクランに入るって言ってあっただろ」
「モグはそんな事一言も聞いてないクポー…」
「あれ? 言ってなかったか? 俺ほとんど最初からそのつもりだったんだけど…言ってなかったか」
あははまたやっちまったなー、とか言って妙に爽やかに笑うエメットに、モーニもモンブランも脱力する。言ったつもり、勘違い、がどうやらこの青年には多いらしい。
「…貴重な前衛クポ。歓迎はするクポー。これでマーシュの負担も随分減るはずクポ」
「え? 僕?」
唐突に自分の名が出て来た事に、マーシュは思わず目を瞬く。
「…もしかしてさっき言ってた前衛の、もう集まってるメンバーって僕の事だったの?」
「そうクポ。ついでにあの時点ではマーシュしか居なかったクポ。いざとなったらカロリーヌにフェンサーにジョブチェンジしてもらうしかないと思ってたクポー」
良かったクポーと和むモンブランに対して、慌てたのは勿論マーシュだった。
「えぇ?! ちょっと待ってよ! そんな、いきなり前衛だなんて、ムリだよ…」
「何言ってんだよ。剣持ってるヤツが後ろ下がってどうするんだ。何も出来なくてレベル上がんないまんまだぞ」
エメットが少し呆れた様子で言うが、マーシュは「でも…」と戸惑うばかりだ。
「マーシュ、大丈夫クポ。さっきマーシュはちゃんと戦えてたクポ。あれで良いクポ」
「何だ、エンゲージしたのか?」
「さっきそこの路地で喧嘩を売ったと言うか買ったと言うか…」
曖昧に言葉を濁すモンブランにエメットとモーニが首を傾げるが、モンブランは軽く溜息をついて話題を切り替えにかかる。
「とにかく、マーシュも前衛で戦うだけの力はあるクポ。モグが保証するクポ!」
「う、うん…」
「そんなに不安に思う事無いクポ。エメット、モーニ、二人ともマーシュに剣の使い方や前衛でも戦い方を教えてあげて欲しいクポ。黒魔道士ジョブのモグより、二人の方が詳しいクポ?」
モンブランの言葉に二人は快く頷いてみせた。バンガの表情は、慣れないマーシュには良く分からなかったが、それでも雰囲気で笑みを浮かべているらしいと気付いた。
「新入りか。まかせておけ」
「良いぜ。バシバシ鍛えて立派なソルジャーにしてやるから、期待してろよ!」
「コイツと二人で、と言う事の方がオレには不安だがな」
「モーニ、上手く教えれる自信無いのか? 俺に任せておけば大丈夫だって!」
「オマエが教える事が問題だって言ってンだ!」
「あ? 俺に任せておけば万事OKに決まってるじゃん」
「信じられンな」
「二人ともいい加減にするクポ!」
いつまでも言い合っていそうな二人をモンブランがどうにか止めて、疲れたように溜息をついた。
「とにかく、頼んだクポ」
「よろしくお願いします」
ぺこりとマーシュが頭を下げる。
「こちらこそよろしくな。オレはモーニだ」
「マーシュです。マーシュ・ラディウユ」
マーシュと自己紹介し合い、モーニはマーシュの隣りに座って飲み物を注文した。
バンガが近くにあった
背凭れの無い椅子を引き寄せて座るのを、マーシュは物珍しさに注視してしまった。長い尾がだらりと椅子から垂れて、先はテーブルの方を向いている。気を付けて歩かないと、通り掛りに踏んでしまいそうだ。実際、マーシュはこのパブに入ってから二度程踏みかけているが。
モンブランはスープを飲み干して、一つ息を吐き出した。
「マーシュの事はさっき皆に紹介したばかりクポ。それを知らないって事は、二人とも今まで何をしていたクポ?」
「寝てた」
「外で鍛錬を」
「…カロリーヌとマッケンローもまだ戻っていないし、一番肝心な相手に全く紹介出来てないクポー。……マーシュの事は後で説明するクポ。
それよりエメット」
ピシッと短い指を人間族の青年に突きつける。
「寝過ぎクポ」
「寝ると育つんだ」
「それ以上デカくなるか」
カロリーヌとマッケンローは皆の食事が終わった頃に戻ってきた。
細身とウサギのような耳のヴィエラ族と、まろい形の鼻先と硬そうな皮膚のン・モゥ族が、モンブランの姿を見つけて手を振る。
「今戻りました」
モンブラン達が座るテーブルへやって来て、見慣れない人間族が居るのに気付く。
「あら、可愛い子を連れてるじゃない。どうしたの?」
「新しいクランメンバークポ」
「マーシュ・ラディウユです。よろしくお願いします」
立ち上がって頭を下げるマーシュに、二人もよろしくと応える。
モンブランは二人にも座るように言い、ぐるりと全員の顔を見渡した。
「カロリーヌ、マッケンロー、エメットとモーニもモグ達のクランに入ってくれる事になったクポ。これで六人、充分クエストはこなせるクポ。だから、今日からナッツクラン活動開始クポ!」
「おーっ」
勢い込んで宣言するモンブランに同調して声を上げたのはエメットだけだった。モーニは満足げに頷いているが、カロリーヌとマッケンローは突然の事に驚いている。
「えっと…クランの名前決まったの?」
首を傾げるカロリーヌに、モンブランは我に帰った。
「あ、さっきマーシュに考えてもらったクポ。マーシュのクラン加入記念クポ」
「ごめんなさいっ! 勝手に決めちゃって…」
「それはモンブランが言い出した事なのでしょう? 君が気にする事では無いですよ。
モンブラン、それではこの時点で完全に独立するんですね?」
大きく肯いてモンブランは応える。自分を見る仲間一人一人と視線を合わせ、満面の笑みを浮かべて声を張り上げる。
「モグ達のナッツクランは今から始動クポ。いっぱい仕事して大きなクランにするクポ。頑張るクポー!!」
モンブランが小さな手を思い切り振り上げるのに、他のメンバーもそれぞれ応えた。
常に騒がしいパブの中でもその声はやはり響いて、周りから文句を言われたが、それでもナッツクランの面々は楽しげな面持ちを変えない。
「マーシュ、頑張るクポ」
「うん」
ここから彼らの旅は始まる。
終
FFT-A、ナッツクラン結成話。
約1名明らかに他とは扱いが違うのはご愛嬌。っつかもう書いてるの私だからしょうがないと言うか。
ふふふ。
マーシュ君、最初なのでまだ余り喋ってません。これから色々揉まれていくのです。主にエメットさんに(笑)。クランの皆さんに溺愛されてる感じが私の希望です。皆で可愛がれ〜。
因みに年齢はそれぞれ、マーシュ君12歳、モンブラン25歳、エメット18or19歳、カロリーヌ20歳、モーニ22歳、マッケンロー27歳、くらいの気持ちで書いてます。マーシュ君はジュニアスクール。中学生がいつもクマのヌイグルミを持ってるってのはちょっと勘弁願いたかったので。あーでもギリギリ中1くらいだったらまだ…。
とりあえずウチのナッツクラン始動はこんな感じで。
(2003/12/12 UP)
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