*読み難そうな漢字には、オンマウスで読みが出るようにしてあります。*

051: めざめ





 目を覚まして、酷く違和感を覚えた。重い頭を抱えながら身体を起こし室内を見回す。カーテンの隙間から差し込む光に浮かび上がる様子は薄汚れた印象で、それがまた違和感を呼ぶ。それでも見覚えはある気がする。どこなのかは思い出せない。
 そしてふと思う。私は、今までどこに居たのか。
「ランデルさん、起きたの? 早いわね」
 不意の声に振り向けば、奥の扉から女性が一人入ってくる所だった。めいた容貌に疲れを滲ませながら、それでも優しげな笑みを浮かべている。誰だ、と思うから言葉が出ていた。
「…マリア」
 自分で言ってから思い出した。行き付けのバーの女主人だ。ではここはいつもの店か。
 徐々に戻り始めた現実感に口許を手で覆う。何かが酷く混乱している。
 ここはどこだ。私は誰だ。私は…何をしなければならない?
「ランデルさん?」
 ミュート。
 ガタリと音を立てて立ち上がる。瞬間、くらりと目が回って手を付いた。
 大丈夫?と女主人がこちらを覗き込んできた。そのままこちらの顔をまじと見て、あらと声を上げる。まあ、と言葉が続く。
「目が覚めたのなら、どうぞ御帰りなさいな、ランデルさん」
 夜はもう明けましたわ、と女主人は美しく微笑み、客を朝の街へと送り出した。





 ざくりざくりと雪を踏む。踏みながら、歩き続ける。視界の左右を街並みが流れていく。足早に慎重に通勤する者、雪を蹴立てて声を上げ通学する者、汗を浮かべて除雪をする者。
 時折ぐちゃりと足元の音が変わる。溶けた雪に危うく滑りそうになる。
 歩きながら、混乱も溶けていく。そして沈んでいく。
 夢を見たのだ。とても鮮明な夢を。多分子供が見た夢を。彼女がいて子供がいて、家族を中心とした世界があった。
 夢の中で自分は父親だった。いや、父親になろうとしていた。あの子に望まれ、自分も望みもがいていた。夢の中だけでなく、現実に帰ってもそうであれると思っていた。
 けれどこうして街を歩いていると夢はどんどん翳んでいく。あの子の、期待を含んだ眼差しは薄れ、昨日アルコールに歪む視界で見た諦めの色だけが心に圧し掛かる。抱える頭は重みを増し、足取りも鈍る。
 それでも、気付けば目指す家の前へ辿り着いていた。鍵が噛み合う感触。震える手でノブを回して引き開ける。
 家の中に、音は無かった。冷たい空気が肌を突き刺す。
 しかし、すぐに奥から足音が近付いてきた。バタバタと走る大きな音の後、リビングのドアが乱暴に押し開けられた。
「パパ?!」
 泣きそうに歪んだ顔で、期待と不安に揺れる目で、ミュートが俺を見ていた。
「ただいま、ミュート」
 泣きながら抱き付いてきたミュートを俺は抱き締めた。頭を撫ぜてを寄せる。子供の体温が温かい。


 夢は醒めた。
 やはり彼女は居らず。
 子は泣き。
 現実の先行きは見えず。
 頭も痛いけれど。

 夜は明けた。
 俺は目覚めた。






  advanced...?

 FFT-Aエンディング、シドさんver.でございます。
 妙にリアルな夢を見た直後って、頭混乱しませんか? 冒頭のシドさんはそんな感じでまだジャッジマスターが残ってます。ボケボケです。
 ちなみに散々「頭痛い」と書いてるのはシドさんが二日酔いだからです。正気に返ってるのできっとかなり痛かろう。

 コレを思いついてしまったので、オリジナルの魔術師と猫の主従は「087:来客」に押し出されました。あしからず。

(2005/06/12 UP)

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