*読み難そうな漢字には、ポイントを置くとポップアップで読みが出るようにしてあります。*
079: 絶える
カーン カーン カーン ………
葬送の
鉦が鳴る。
高く、静かな、重い震え。
音の沈む大地は、たくさんの人と馬の足に踏み付けられ、血を吸い、荒涼とした様を
呈している。過日にこの地を満たした荒々しく熱い空気はどこにも無く、広く散って作業を進める人々も、無言で手足を動かすのみである。
昨日、この地に多くの命が消えた。
狂気を
孕んだ戦場のうねりが耳の奥にこびり付き、今も耳鳴りのように脳内に空ろに響いている。
否、そんなものは本当に幻聴なのかもしれない。ただ、集められた人数の割には酷く静かなこの
場処に、愚かな妄想を抱いているだけなのかもしれない。
遮る物の無い場処に居る人々に、風が強く吹き付けた。皆の髪が、
裾が、所々に掲げられた軍旗が、不意の突風に
煽られて大きく波打ち
翻る。
青い、空色に染め抜かれた解放軍々旗。
この旗の
許で振るった己の武器で、どれ程の命を奪っただろう。
この旗の許で振り下ろした己の腕(命令)で、どれ程の想いが途切れただろう。
風で乾き始めた目を強く
瞑った。目の奥、視神経の集まる辺りでじわりと痛みにも似た
疼きがわだかまる。
風が収まり、瞼の上に前髪が掛かるのを感じた。
緩やかに両眼を開き、背負いし者は
踵を返した。
己の名を呼ぶ者達の元へと。
終
T時制、戦の跡。
一度も名前は出してませんが坊ちゃんです。
そしてお題は敢えて次の「嘆き」では無く「絶える」で。
(2004/01/22 UP)
back