X'mas dinnerを一緒に
今年のカレンダーも最後の1枚、12月も下旬に差し掛かっていた。
兵助は大学4年生、就職難の中どうにか内定をもらい、目下卒業論文に取り組んでいる。提出期限は年明けの1月10日で、今は追い込みをかけているところだ。今日も講義は無かったが大学へ行っていた。
寒さにかじかんだ指先をジャケットのポケットに突っ込んだまま、アパートの玄関を開ける。室内の暖められた空気に包まれて、無意識に縮こまっていた肩から力が抜けた。
「ただいま」
「メリークリスマス!」
ダイニングに入った途端、クラッカーの破裂音と弾んだ声に迎えられ、兵助は目を瞬かせた。
「あ?」
「お帰り、兵助くん。メリークリスマス〜」
重ねて言われた言葉が、ようやく自分の中の日付感覚と合致する。しばらく前からタカ丸がリースや小さなツリーのオブジェを飾っていたのは知っていたが。
「あぁ、そっか。今日だったっけ…」
「ふふっ、やっぱり忘れてた。最近ずっと忙しかったもんね。ご飯作って待ってたんだ。暖かいうちに食べようよ」
手早く上着と鞄を取り上げられ、ほらほら、と背を押された先の食卓は、華やかに彩られていた。
リースを模して盛り付けされたサラダの、プチトマトの鮮やかな赤やブロッコリーの緑がまず目を引いた。更に白くとろりとしたチャウダーに、小海老をふんだんに使ったピラフ、照り色が食欲をそそるチキンが並べられていく。それらをキャンドルの灯りが柔らかく包んでいた。
「…旨そうだな」
「うん、頑張ったよ。さ、食べよう」
こちらも奮発したらしいスパークリングワインを開けて、グラスに注ぐ。それを掲げて合わせると、チリンとキレイな鈴のような音がした。
「メリークリスマス、兵助くん」
「メリークリスマス」
料理はどれも美味しかった。チキンは皮がパリッとしているのに中は柔らかく、甘めのソースが合っているし、ピラフはプリプリの海老とサッパリとしたハーブの風味が旨い。チャウダーには豆乳が入っており、ふわりと香った独特の風味に驚いた顔をすれば、タカ丸が嬉しそうに笑った。
「さすが兵助くん、気付いてくれたんだね」
「いつも思うけど、あんたスゴイよな」
「ありがとう。兵助くんのそういう顔見たくて頑張ってるんだよ」
へにゃりといつもの笑顔にとろけそうな幸せを上乗せして相好を崩すタカ丸に、兵助もさすがに恥ずかしくなって顔を赤らめる。
「…そういうこと言うところも、ほんとスゴイよな」
「言いたいことは言わなくちゃね〜。知ってた? こういうのは増えるだけで減らないんだよ」
したり顔でそんなことを言って、タカ丸は兵助のワイングラスに己のグラスを合わせて再びチリンと鳴らす。それでも多少は照れたのか、頬に僅かに赤みが差していた。
何となく言い負かされた気分がして兵助は唇を歪めたが、タカ丸のその照れた様子と、眼差しに込められた労りの色に、居住まいを正して食事を再開した。
「兵助くん?」
「…うん、美味い。ありがとう」
「どういたしまして」
デザートの、ベリーやイチゴで彩られたゼリーまで完食すると、兵助はすっと食卓を離れてしまった。タカ丸が首を傾げていると、すぐに奥の部屋から出てきて目の前に包みを突きつけた。
「…やる」
「え、わぁ! ありがとう! 忙しいのに買ってくれてたの?」
「あんたがリースとか飾り出してすぐに買っておいた。覚えてる内に買っておかないと、絶対忘れると思って」
実際に忘れていた兵助は、タカ丸の心配りに少しでも応えられたことに内心ほっとしていた。
くいっと袖を引かれて、兵助はタカ丸と目を合わせた。にこりと見上げてる意味有りげな視線に苦笑し、腰を屈めて顔を寄せる。
「メリークリスマス」
「メリークリスマス!」
軽く触れた唇の感触が妙にくすぐったく、どちらともなく笑みが零れた。
了
昨年作り掛けて出しそびれ、今年も結局遅刻、という結果になりました。クリスマスネタ。情けなや。
プレゼントの中身はご想像におまかせします。いやもうまじで思い付かなくて。苦手なんですすいません。
タカ丸さんもこのあと兵助くんにプレゼントをあげてます。久しぶりにえっちもさせてもらってます。(卒論でしばらくお預けだった)
説明ばっかですいません。もう無理。
(2010/12/26 UP)
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