Air Mail
携帯で時間を再度確かめて、タカ丸は息を吐き出した。約束の時間から30分近くが経過している。
生真面目な兵助が待ち合わせの時間に来ないのは、生真面目故と知っている。ひとまず携帯のメール作成画面を立ち上げながら、タカ丸はその場を離れた。
三木ヱ門は研究室から出たところで足を止めた。廊下で見覚えのある人が人待ち顔で立っていたのだ。
「斉藤さん、でしたっけ?」
「あ、田村くん。良かったぁ。中に久々知くんがいると思うんだけど、呼んでもらってもいいかな?」
「いいですけど…携帯通じないんですか?」
「作業に集中してると全然見ないから」
苦笑と共に言われたことに妙に納得し、三木ヱ門は部屋の中へ戻った。
兵助は隅のパソコンの前に居た。目を僅かに細め、時折手元の資料を見たりマウスを動かしたりしながら、猛然とキーボードを叩いている。
「久々知先輩」
三木ヱ門は傍らに立って控え目な声で二度三度と呼んでみたが、兵助は一向に気付かない。研究室で余り大きな声を出すわけにもいかず、代わりに肩をトントンと叩く。と、彼がパッと弾かれたように三木ヱ門を振り向いた。大きな目を更に見開いて見上げてくる。
「あ…田村?」
「先輩、斉藤さんが外に来てますよ」
「タカ丸さん…? あ、しまった!」
兵助は立ち上がりながらデスクの隅に放置していた携帯を慌てて取り上げ、折り畳み式のそれを開けた。が、キー操作二つほどでいきなりバクンと閉めた。何故か顔がこれでもかと言うほど赤い。
「く、久々知先輩?」
「いや、悪い、何でもない。タカ丸さん、が来てるんだったよな」
兵助はどうにかそれだけ言うと、デスクに片手を突いて、もう片方の手は口元を覆って何度か深呼吸を繰り返した。しばらくすると頬の赤みは大分引いたが、耳はまだ少し赤い。三木ヱ門がそれを指摘していいものか迷っている内に、彼はゆらりと席を離れた。
「田村、知らせてくれてありがとう」
「いえ…」
どことなくぎこちなく歩いていく背を何となく見送って、三木ヱ門は狐に抓まれたような、という表現はこういう時に使うのだろうか、と考えていた。
「ごめん、またやった。すぐに片付ける」
「うん、良いよ。待ってるから」
研究室に戻る兵助の耳に残った赤みに、タカ丸は目を猫のように細めて忍び笑った。
兵助の携帯の、呼び出されたままの受信メール画面には、大きな大きなハートマークにあいしてるぅ、と描かれた可愛いらしいデコレーションメール。
了
身内でデコメ妄想膨らませてた時の産物です。でっかいハートマークに「あいしてるぅ」はホントにありました。というかそれ見て思い付いた話。
にしてもデコメ用の画像、結構エロいのもあるんですね。自分デコメを全然使わないので知らなかったんですが。「今夜、したいな〜v」みたいなのもあって、うっわタカ丸さん以外で誰が使うんだよこんなの!(酷)とかぎゃーぎゃー言ってました。そんなデコメを送って真っ赤になった兵助くんに殴られてれば良い。
三木ちゃんのポジションがとても美味しい。
(2010/02/17 UP)
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