字柄人柄帳面模様
田村三木ヱ門、19歳。
今年の春、実家から1時間ほどの距離の大学に晴れて合格し、大学生活を楽しみ始めたところだ。新しい友人、初めてのバイト、あと
勿論勉強も。入学して半年経つが、慣れはしても
飽きはこない。
だが、そう、慣れたので。
三木ヱ門は趣味としている、とあることへの知識欲を満足させる為、大学を一日サボることを決めた。
サボった日に受ける予定だった講義は二つ。一つは友人と一緒に受けているものだったのでノートも代返も問題なかったが、もう一つは一人で受けていたので少々困った。
迷ったものの、以前から同じ講義を受けているのを見掛けていた学科の先輩に、ノートを借りることにした。
「田村」
サボった翌々週の講義前、三木ヱ門は声を掛けられ振り向いた。
「久々知先輩」
久々知は、三木ヱ門と同じ学科で一つ上の学年だ。体育の講義でも一緒で、そちらで顔見知りになった。ノートを頼んだ相手である。
「ノート貸してほしいって言ってただろ。そのページ使い切ったから、今渡すよ」
「すみません、ありがとうございます」
礼を言って受け取ったルーズリーフを見て、三木ヱ門は一瞬動きを止めた。
久々知の書く文字は角張っていて、何というか男らしい字だった。字の間隔が狭く、色ペンを使っていない所為か、妙に紙面が黒く見える。内容のポイントは書かれていないのかと思ったが、よくよく見てみるとアンダーラインと補足のようなものが書いてある
箇所があった。
「どうした、田村?」
「あはは、兵助のノート見難いんだよ」
久々知の隣に座っていた人物が口を挟んだ。友人なのだろう、いつも久々知と共に講義を受けているのを見掛ける。彼は丸い目をくるりと回して三木ヱ門と視線を合わせ、ね?と同意を求めて笑った。その通りです、とはさすがに言えず、三木ヱ門は微妙な笑みを浮かべる。
「何だよ、雷蔵のだって大差ないだろ」
ほら、と見せられたノートは雑多な印象を受けるものだった。大きな字は基本的に
罫線をはみ出しており、色々な箇所にごちゃごちゃとした書き込みがある。横に書かれた日付からすると、久々知が一枚で書き終える内容のことを、二枚弱に掛けて書いているらしい。
「僕は後で迷わないように色々書いちゃうからね。その所為で逆にどこがポイントだったか分からなくなったりもするけど。ノート見せてもらうなら、三郎のが一番良いんだよね」
「あいつ家で勉強しない代わりに、授業だけはきっちり聞くからな。妙な所で細かいし」
「はちのノートは借りれたもんじゃなかったよね。字が
豪快過ぎて」
友人の笑いながらの言葉に同意を示して、久々知が
頷く。
彼らの共通の友人のことなのだろう、三木ヱ門の分からぬ話になってしまい困っていると、後ろからひょいと新たな人物が覗き込んできた。
「おはよう。八左ヱ門くんがどうかしたの?」
「おはよう、タカ丸さん」
「ノートの話をちょっとな」
タカ丸と呼ばれた彼は、三木ヱ門に
会釈をして、久々知の隣に一つ空いていた席に荷物を置いた。
「そうだ。タカ丸さんのノートも見せてあげてよ」
「うん、良いよ」
タカ丸は
唐突な展開にも動じる様子を見せず、
綴じられたルーズリーフをペラペラとめくって、どうぞ、とバインダーごと差し出した。それを受け取って
覗き込んだ三木ヱ門は、一瞬目がチカチカして思わず
瞬いた。読み
易い字なのだが、要所要所に使われている蛍光ペンが目に痛い。妙な書き込みも多かった。先生はマヨラーとか、そんなのは絶対に授業に関係ない。
首を伸ばして同様にノートを覗き込んだ久々知が呆れ声で
零す。
「相変わらず派手なノートだな」
「あはは、何これ、桜は二回咲くって、そんな話出たっけ?」
「出たよー。僕知らなかったからびっくりしたんだ。色もね、いろんなの使った方がきれいだし分かり易いよ」
「でも黄色の蛍光ペンで文字書くのはないだろ」
「そうかなぁ」
「黄色はさすがに見難いかな」
そんなことを話している内に予鈴が鳴った。あ、と久々知達三人が何もない空中を見上げる。
「悪い、田村。話が
逸れた」
「で、どうするの?」
笑い含みの声で訊かれ、三木ヱ門は渡された三つのノートを見ながら
逡巡した後、
「三つともお借り出来ますか…」
そう言って三人に面食らったような顔をされた。
了
某お方たちから受信した筆跡ネタでした。受信したのは結構前なのに、自分の遅筆の所為でこんなに遅い仕上がりとなりました。まぁいつものことだ。
初登場の後輩・三木ちゃん。
文章内には出してませんが、やっぱり火器マニアです。一応知識の方面の。実技はエアガンくらいやってるかも?と思ってます。さすがに公言はしてないようです。現パロでそれを公言してたらどんだけ危ない人なの。ごくごく親しい友人たちが知ってる程度です。でもその分愛の深さは計り知れない感じで。
4年生面々は兵助たちの大学の後輩・タカ丸さんの大学での友人が良いなぁとぼんやり思ってます。
(2010/01/03 UP)
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