雲の行方、大地の腕







「何してるんだ?」
 湖の砦の前庭、時代樹の側の草地に寝転ぶアルクを、ジーノが覗き込んだ。じっと空を見上げていた青の瞳がゆると動き、幼馴染を映す。
「ちょっと休憩してたんだ」
 笑みの形に目を細め、アルクはまた空へと視線を戻す。
 ジーノはふーん、と分かったような分かっていないような声を漏らして、アルクの隣に腰を下ろした。労わるように緩く頭をポンポンと叩かれて、アルクは苦笑する。
「ありがとう、ジーノ。でも僕は大丈夫だよ」
「いいんだよ。俺がやりたいの」
 素っ気ない調子のジーノの声に、アルクは苦笑を深めながらも手を振り払うことはしなかった。幼馴染の優しさは嬉しい。が。
 本当に、大丈夫なんだけどな。
 胸中で一人語ちて、全身の力を抜いて大地に深く身を任せる。
 これは、アルクなりの元気の補充の仕方だ。
 いつだったか、スニフが言っていた。昔夫が生きていた頃、雲を眺めてはあの雲はあの人の元へも行くのだろうか、この空はあの人の元へと繋がっているはずだ、そんなことを思いながら、遠くで頑張る夫に想いを馳せたものだった、と。
 アルクの場合、この空が彼の元に続いていることはないけれど。
 この大地は、かつて彼が生きた場所だから。
 大地に身体を投げ出し、彼の瞳と同じ色の空を見上げて、遠く時間を隔てた人に想いを馳せる。




  了



 ツイッターで参加させて頂いてる、同題SS紡時のお題「雲」で妄想した内容が140字で全く収まらなくて不完全燃焼だったので焼き直し。
 あの場にジーノがいたのはこういうやり取りを最初に考えていた名残でした。

(2012/12/30 UP)

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