*読み難そうな漢字には、オンマウスで読みが出るようにしてあります。*



明滅する光





 夜の空気は冴え渡る。
 肌を刺す冷気と殺気に口元を引き締めて、アレンは潜めた声で名を呼んだ。
「ラビ」
 声は顔のすぐ傍らで羽ばたく黒い通信用ゴーレムが拾い、チャンネルを繋いだ先に届ける。
『もうちょい。あと三十秒』
「見えていますか」
『さっき見えた。今は建物の陰だけどな』
 焦燥感と緊張感に肩に力が入る。左目のモノクルがアクマの動きを追う。あと、少し。
『アレン、大丈夫か? 声が硬ぇよ』
「大丈夫です」
 生来の負けん気が首をもたげて、アレンは反射的に答えていた。小さなゴーレムの向こうでラビが笑った。頼りにしてるぜ、アレン。いつもの軽く暢気そうな声が機械越しの冷たさで言う。どこか現実感の無い、作り物のような。
 アレンはぎゅっと手を握り直した。





『ラビ』
 気配を殺して作戦ポイントに移動していたラビは、ちらりとゴーレムを見た。機械越しにでも分かる弱く揺れた声。それも悲しみや遣り切れなさにではなく、不安に揺らいでいる。彼がそんな声を出すなんて珍しい。
「どしたさ、アレン?」
『…無事でいて下さいね』
 ラビは数秒驚いてから口元を締まりなく綻ばせた。誰かに心配されるというのは何ともこそばゆく嬉しいものだ。
「まかせるさ。早く片付けて帰ろーな」
『はい』
「んで一緒に寝よーな」
『は……え?!』
 図に乗らないで下さいとかその歳で一人寝も出来ないんですかとか、そんな厳しいお言葉をラビは予想していたが、アレンは逡巡の末に結局はいと答えてくれた。
 くつくつと喉の奥で笑いながらもポイントは違えず、ラビは右手のを持ち直してよっしゃと呟く。
「行くぜ、アレン」
『はい』
 今度は強い鋼の声で。
 ラビは筋肉を収縮させて一気に飛び出した。星の光を黒い槌が大きく遮る
 そして闘いが始まった。





 アレンは不意の小さな不安とかに弱そうだな、とそんな話。
 お題の方は 明滅する光→モールス信号?→ゴーレムあるから要らないか→んじゃ緊急通信用も兼ねてるってことでゴーレムで。 という連想ゲーム。

(2006/01/05 UP)

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