祝映画
「…黄昏甚兵衛と大間賀時曲時の密約を知ってしまった以上、園田村には危険が迫っておるじゃろう。皆で園田村を守るのじゃ!」
夏休み明けから、宿題の入れ替わりだ一年生救出の選抜チームだとバタバタしていた学園内は、今朝の学園長の園田村防衛宣言で一気に慌ただしさを増した。
兵助も準備の為に焔硝蔵へ向かっていると、後ろから名を呼ばれた。
「兵助!」
振り返ると勘右衛門が小走りに追い付いてくるところだった。彼は立ち止まった兵助と肩を並べると、弾む口調で喋り出す。
「これから準備か?」
「うん。土井先生から指示を頂いたから、委員会を集めて取り掛かるよ。学級委員長委員会は何か指示が出ているのか?」
「他の委員会で手の足りてないところを手伝うように言われてるよ。先生や上級生が何人か先に出ているし、うちも鉢屋と庄左ヱ門がいないからなぁ」
「三郎は雷蔵と一緒に選抜チームだったな」
「庄左ヱ門は一年は組のお約束、だってさ」
勘右衛門はひょいと肩をすくめてみせる。
一年は組と言われて、兵助は委員会の後輩の二郭伊助もいないことを思い出した。伊助は一年生ながら手先が器用で細かい作業を苦にしないので、火薬の準備の時など重宝するのだが。
「勘右衛門、火薬委員会の準備を手伝ってくれないか? 土井先生も伊助もいないんだ」
「いいよ。焔硝蔵に行けばいいのか? 彦四郎を連れてくるよ」
「頼む」
一年生の教室へ向かう勘右衛門を見送って、兵助は
踵を返した。兵助も委員会の下級生の教室へ向かいながら、顧問である土井からの指示の内容を思い起こす。必要な火薬の種類、分量、輸送時の注意点。…そして最後に記されていた、ある委員への謎の指示。
「兵助くん〜」
四年生の教室に着く前に、当の四年生の火薬委員が向かいからやってきた。相変わらず目立つ淡い髪が、動きに合わせてふわふわと揺れている。
「タカ丸さん」
「おはよう。俺を呼びに来てくれたの?」
「…あぁ。火薬委員会で準備しなければいけないものがある。蔵に行くぞ」
「は〜い。あ、さっき三郎次に会ったよ。先に焔硝蔵に行ってるって」
「そうか」
兵助はタカ丸と連れ立って歩き出しながら、一瞬視線を下げた。が、すぐに真っ直ぐに前を見据える。
「タカ丸さん、あんたにはもう一つ別に指示が出てる。髪結いの道具と私服を持ってくるように、と」
「髪結いの道具を?」
「それ以上は何も書かれていなかった。向こうで指示がもらえるんだろう。…おそらく、選抜チームの方と合流することになるんだと思う」
詳しい話は分からないが、選抜チームの一部、平滝夜叉丸と神崎左門、後から合流した立花仙蔵は別の動きをしているらしい。制服と別の
扮装が必要ということは、どこかへ潜入することになるのだろう。…そして、タソガレドキの陣営への潜入の可能性が一番高い。
「気を付けろよ」
「ありがとう。でも危ないのは兵助くんも同じだよ。軍が攻めて来るんだもん。気を付けてね。後輩
庇って無茶しないでね」
「分かってる」
否定し切れぬ可能性を指摘され、ややムッとした表情になった兵助に、タカ丸は絶対だよ、と念を押した。そして、きょろりと周囲を見回して人がいないことを確かめると、ねぇ、と兵助に顔を寄せた。
「俺のこと心配してくれるなら口吸いしてよ」
「あ?」
「おまじない。お願い、兵助くん」
タカ丸は、ダメ元でそのお願いを口にした。先程から固い表情しかしない兵助の気持ちを少しでも解してやりたかった。こう言えば、きっと顔を赤くして
莫迦者!とか
罵りながら、少しの間だけでも仕事のことを忘れてくれるだろうと、そう思っただけなのだが。
ふわり、と唇に柔らかな感触があって、タカ丸は目を瞬いた。目の前を真っ赤に染まった兵助の
耳朶が
過っていく。
「…兵助くん」
「まじない、なんだろ。これであんたは大丈夫なんだろ」
「…うん。ありがとう。頑張るね」
タカ丸は兵助に追い付き、その左手を捉えてぎゅっと繋いだ。いつもより熱い手のひらが酷く愛おしかった。
了
アニメ映画の公開後にあった、3月の名古屋のイベント時に無配した映画祝いの小冊子のSSでした。
DVD発売されましたね! あの可愛いたまごたちが我が家に…! ニヤニヤしながらコマ送りしております。かわいいかわいいかわいい。
(2011/07/24 UP)
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